産業医科大学 安全衛生マネジメント学 河村洋子 教授

「ソダーツ」を使う前の組織課題

河村)そうですね、管理職の立場にある人とそうでない人たちの間に大きな壁があって。お互いのことを思っていてもそこが繋がってない感覚です。とりわけ大学という組織は一般的な企業と違って、組織として動くとか、管理職の立場にあるけれども人を育てていくとか、マネジメント人材を生かしていくかという事に対する認識が企業よりも薄いというか、学ぶ機会もない。じっくり考える時間もないようなことがあるので、そこに重きを置かれていない部分があったりする。そこがもうちょっと組織として醸成されるといいなというところがありました。

これまでのマネジメントで苦労していたこと

河村)私自身はコミュニケーションをすごく大事にしている。自分を開示して、素直でないと相手に心を開いてもらえないと思うので、オープンな感じで自分のことも伝えるし、相手の思いも聞く一対一という感じでやってきました。ここに来て、管理職の観点で動く立場になった時に、教育や研究のスキルを高める研修だけでなく、組織としてどう上手く機能していくかを考えるようになりました。小さな変化を生むことがすごく大事だと感じて、組織を揺らすようなことをしたいなと思っています。ちょうどいい先生に出会い「ソダーツ」に出会ったというところです。

「小さな変化が大事」について先生の研究踏まえて教えて下さい

河村)そうですね。私自身研究のアプローチがそういうところで、コミュニケーションの質はちょっとしたことで変わってくるし、福祉の分野でよく言われる手当てとか、ちょっとした工夫が大きな違いや関係性の質の向上につながるということを研究してきたこともあって、そこは大事です。組織の特徴として、すごく階層的な組織構造だし、だからこそ皆さんが組織が変わらないと自分たちは変われない、変えることはできないって思っているんですね。はっきり言うと、何でこんなルールがあるんだろうってことも疑問に思うこともある。そういうところも本当は声をあげられるようになるべきだし。声を上げてみたら意外に変えていけることも。事務の方とかもそういう感覚をお持ちなんだけど、そういう動きがなかったっていうところもあるので。それこそ動いてみることがすごく大事というのは実感してました。

「ソダーツ」のファーストインプレッションを教えて下さい

河村)やっぱり「ソダーツ」のすごいところは科学的なエビデンスに立脚して、そこにうまくAIという先端的なツールも取り入れて、客観性を高める形で進んでいく素晴らしさがあります。でもその良さは、実際に取り組んでみないと分からないことだと思うんです。私なんかはすごくいいよねって思う方なんだけど。最初は皆様、抵抗感ありましたよね。

伊井)やっぱり大きな理論とかこうあるべきみたいなところから動く方が納得感が高い。ちょっとしたことで組織が変わるっていうと、そんなことで変わるのって。まあそれは組織ごとに別なものがあるわけなんですけれど、ちょっとしたことではなく、正しいもの、大きな組織論みたいなところで、根本から変えないと変わらないと思う。そんなちょっとしたことで、本当にあるとは思えないっていうところをどうクリアするかって、なかなか伝わらないですよね。

「ソダーツ」を実際に初めてみて

河村)その部分が、すごく乗り越える壁だと思うんですけども。回を重ねるごとにそこが解けてくる感じはしましたね。やっぱり体感するのがすごく大事だと思います。私、一番好きな言葉でガンジーの「自分が見たい変化に自分自身がなりなさい」っていうことを言ってるんですけど、変えたいと思ったら自分が動くしかないですよね。他の人をいきなり動かそうと思ったって変わらない訳だから。ただ自分が動くしかないんだけど、それ。頭で分かったとしても、理論的な納得感がないと。人ってやっぱり凄くちょっと引いちゃうところがあるので、やっていくとそれが実感できるので。(ソダーツを実施して)だんだん打ち解けていく感じがすごくありましたね。最初はもどかしくて、やってみないとわからないよーって叫びたくなるのを堪えるのが大変(笑

伊井)とりあえずちゃんとやってみようと思ってもらえたのは、我々がちゃんとエビデンスがあるから。研究者の方で、結局ちゃんとエビデンスがあるものに対しては、自分自身の感覚ではなくても、紳士に向き合うっていうスタンスはあると思います。そこで我々の方法はちゃんとエビデンスに基づいているっていうところで「いや、そんなことでうまくいくと思わないけれど、ちゃんとエビデンスがあるっていうことならば、ちょっと試してみようか」みたいなところの感覚は、皆さんに持っていただいたっていうのは大きなそうですね

河村)あとは、やっぱりAIはいいものだけど、AIに対する懐疑心もある。でも、出てくる答えっていうのが良かった。どういう風に生かすのかっていうことをきちんと捉えていただけると、すごく私としては納得感があるっていうか。ああ、こういう風なことなんだね。じゃあ、こういう風に自分の組織で考えていけばいいんだっていうことが伝わると、なんか皆さんそれぞれにすごくいいアイデアが出てくるようになった感じがある。その二つ山を乗り越えると、すごくいい知恵が見えてくる感じがしますよね。

伊井)AIもやっぱり使い方は大事だと思って何が正しいのはこうどうあるべきかっていうのはAIに聞いてしまうと、適当なことを返してくるっていうのと、あのかなり忖度しますから、自分が先入観を持って、やっぱりねみたいな風に使ってしまうと、自分が信じたいものしか信じなくなってしまう。ただいろんな可能性を示してくれるので、ちゃんと情報っていうか、自分たちの気づきを入れて、そこから選択肢って自分のこうだって決め付けてしまうところを、より広くするためには使えるツールなんですよね。

河村)あとソダーツでは、意見を出すところも見るじゃないですか。それ自体がオープンコミュニケーションの機会になる訳ですよね。コラボレーションを提案してくれる機会になるのかな?アイデアが色々出てきて、わくわくするような感じはあります。

「ソダーツ」で実際に何が変わったか?

河村)まずはチーム間のイノベーションが起きた。組織に持ち帰って、情報の共有に仕方、例えば私たちの「ソダーツ」の中で出てきた。情報共有にグーグルドキュメントみたいなのを使ってみるとか。アイデアを入れたことで、情報共有できていないという抽象的な問題が、具体化されてみたいなことがありました。同じ情報共有でも、お互いのこと知らないよねっていう気づきになり今年からですね。ちょっとカジュアルな研究交流会っていうのも、展開し始めるようになりました。

カジュアルに交流できるスペースが良い、ちょっとこんなことやりたいと思ってるっていう話が出ました。情報の透明化でお互いが何やってるのかを知る、全然お互いわからないことに気づくみたいな話になる。具体的にどうしたらっていう話を「ソダーツ」で振られるので、火がついた感じになり。

伊井)組織によって何かうまく行くかについては、本当に僕も常に予測できないんですけれど、何かがはまって、それが大きく変わるきっかけになってっていうのが何かしらででてくるっていうのは面白いですね。だからそれこそね、やってみてっていうのがあると思っています。

「ソダーツ」によるチームの変化

河村)参加する人たちが、チームは違うけど、一緒に回を重ねていく中で、雰囲気もすごく穏やかになったっていうのもあるし、それで、理解もできて、みなさんがこう前向きになった感じもありました。学部として取り組むことに対して、なんとか前向きなあの合意形成にも繋がってるかなっていう気はしますし。あとは、みんなあの場でいい雰囲気になっていった感じは間違いなくありましたね。

伊井)我々があの心理的安全性と呼んでいるものではあるんですけれど、何か言いやすい雰囲気と一般的に言われますが、もっと明確な表現としてはちゃんと行動、自分が何ができるかってやっぱり結びつく雰囲気になってく。なんか自分が何しようかって、結構あのハードルがあるっていうかのためになりたと思っているけれど、本当に自分がやっていいのかとか、他のところで免罪符って言い方されたことあるんですけれど、ちゃんとチームのために自分が動いていいんだっていう感覚があると。まわりとこう、そもそも協力しようと思っている気持ちがあるっていうのが、ちゃんと発散されるっていう雰囲気に変わる。

河村)そうなんですよね。ソダーツで管理職の人たちが集まったわけですが、管理職とそうでない人との間でお互いが考えてることを話してみる。いろいろなことを一生懸命やってるんですよね。やってることが十分に理解されているのかとか、評価されてるのかも分からないというのも解消されてくるなっていうのはありますよね。それこそ去年やったご自身の取り組みがまあのね。講座の中で評価されてたっていう感想も書かれてたりしたので、そういうことが分かるっていうのは、すごくやっぱり自分のモチベーションにもなるしですね。いいなぁっていう風に思いました。

「ソダーツ」でこれから解消していけそうな課題

河村)そうですね。やっぱり継続が大事だと思うんですね。で、継続っていうのは同じことをやり続けるっていうんじゃなくて、変化をし続けることを継続するっていうことなんですよね。そこがすごく大事で、やっぱりそういう「ソダーツ」は私たちに(変化し続ける)環境を作ってくれるっていうところがすごく良い。やっぱりね、自分たちだけでやろうと思うと、結構限界もあるんですよね。忙しくて。本当にもうなんかなんか次から次といろんな事柄が入ってきて月1回でも1時間でもこうやって時間があるのが良い。そうすれば、きちんとTo Doリストに入ってくるじゃないですか。まさにやること宣言もするわけだし。変化することで私たちは学ぶので学習する組織ですよね。まさに学習する組織を作る環境を作ってもらえると感じている。

伊井)これから時代もどんどん変化していきます。大学も他の大企業も、今までのままではいられない中で、いかにして変化する、学習する組織になっていくかっていうところに、継続することによって寄与できるって、本当にそれ我々が目指すことですし、やはり大学においても必要とされてくる方向性ですよね。

河村)変化し続けて変わっていくことが刷り込まれていかないといけないけど、人間の本質が許さないということもある。やっぱ教育って成果を長いスパンで考えなきゃいけないし。だからこそ、凄く丁寧に時間をかけることに価値が大きいです。それはもちろん、大事なことだけど、その一方で、少子化もどんどん進んでいき、やっぱり大学も組織として生き残るためには、世の中のスピードについていくっていうことも考えなきゃいけないですよね。まだまだ一般企業に比べるともっと必要なこと。

伊井)残していくこと、変わるべきことをいかに整理するかは予測できないっていう立場で我々はいます。どうしても一般的な方法論だと、こう変わるべきみたいのを明らかにしていくんですけれど、我々はそこを決めずに、自分たちの関係性の中で何が変わるべきことで、何が変わらないところかっていうのを気づきながら変わるところから変わっていく。多様性の時代で正解がないんで、こうあるべきっていうのが無いっていうのは難しいところではありますけど。だから、それぞれの組織にとって、何が正解かに向かうのは難しいことですよね。

河村)先生に言われたように、本当に変えていくことって、小さいことからでしかできないですね。何か大きなことを動かそうと思ったって結局できないです。自分の周辺で、自分の周りで、できること、より良くしていくことを、着実にやっていくほうが、複雑系システムでいくと、大きな何か波になったり、大きな変化のなんかきっかけになったりするっていうものなんですよね。

伊井)人間の脳では大きなことで変わるっていう風なところにフォーカス当てがちですけど、その複雑系の中では別に大きなことによる変化と、小さなことによる変化っていうところが違いがあるわけでもなく、偶然によって左右されるわけであって、であれば、大きな変化を一生懸命考えて、ボンってやるよりは、小さな変化を繰り返していく中で、当たるものを探すのが大事・本当にバタフライエフェクトじゃないですけど、どっかでちょうちょがはばたいたことによって台風が起きるわけであって、ま、それでじゃあいかにして台風が起きるかっていうことをみんなで考えてるよりは、とりあえず羽ばたいている中で、どこかが渦を巻いて動いていくわけで、結局は小さなことからしか出てこないっていうところが、実際は真実なんでしょうね。

河村)そうなんですよね。多分ね。結局できることは限られていますから。あとはコロナを経験して思ったのがね。前例は当てはまらない時代だから、もう私たちお手本はないと思った方がいいですよね。道しるべみたいなのは欲しいから参考にするとしても。でも、過去やった成功事例が今、将来に当てはまるもんじゃないっていう大前提を持たないといけなくってとしたら、もう本当感じられる。捉えられるところで判断していくしかないですよね。きっとね。

「ソダーツ」の良いところ

河村)私は取り組んでみて、私自身、理論的なバックグラウンドとか、行動科学をメインにしてるから、すごく納得ありました。取り組んでみて実感できることは、実社会に戻って、今言った小さなことが強化されたり、何か影響を及ぼしたりを本当に実感できたんですね。短時間でもいいから、取り入れてみて頂きたいっていうか、経験をしていただくことで、自分たちの効力感も高まるような気がしますね。だから、何かこう何もできない。どうせ変われないんだっていう無力感からも抜けることができると思いますね。

伊井)やってみて、うまくいったっていう経験をできて、そっからじゃあ、どうやってみるかって動き始めるっていうところは、やってみたことそのものよりも影響大きかったりしますよね。

河村)そうです。そうです。人の経験の意味付け、価値づけの仕方で、返ってくるもの、自分で認識できるものって変わってきます。私が、好きな概念だったりするんですけど、すごくできる人。でも、実際、人同士の関係とか組織を考えると、そんなものですよね。関係なんて測れないし。組織って本当に人同士の認識でできてるものだからやっぱりそこを何ていうの「アゲアゲにする」っていうか私は、アゲアゲって言葉大好きなんですけど。でもよく使うんですよ。先生も使ってください。私も今度は明日も研修するんですけど、担当者の方に「明日アゲアゲでいきますから」みたいに、気合入ってる感じですね。

「ソダーツ」をどんなところに使ってもらいたいと思うか

河村)心理的安全性っていう言葉がすごくやっぱり先走っている感じがあって何ですかね。一方で、あの相手のことを慮りすぎる。だから大事にしすぎて言えない。その一方で言いたいことはなんでも言える。本当の意味での心理的安全性っていうのをこう経験してみたいっていうか、そこが必要と思われているんだったらおすすめです。本当にコミュニケーション可視化になることは間違いない。そこから組織のオープンさが高まっていく。だから、やっぱり心理的安全性を作っていかなきゃって。本当の意味で心理的安全性を追求したかったら私は本当にいいなというふうに思いますね。

  1. 産業医科大学でマネジメントトレーニングを取り入れることについて

河村)今まで‘(産業医科大学でマネジメントトレーニングを採用した)そういう事例はないです。一部ではなく全体で実施するためには、教授会とかでしっかり承認していかなくては行けない。本当に前例がないことです、今は大学全体でも本当に人が生き生きと働けるために、考えておくべきことにも力入れ始めています。1つの講座や学部じゃなくて、色んな所に関心を持ってもらえるといいなと思います。

伊井)日本の中で産業医科大学って、日本全体の産業をどうするかっていう総本山に今試して頂いているのが凄く我々にとっても光栄なことです。精神科医として診察していると、ひたすらパワハラでうつ、職場でうつっていうばかりなんですよね。精神科医が薬を出しているだけでは、いつまでも止まらないです。本当に産業医科大学の皆様にしっかり使っていただいて、そこから各地であの活躍している先生を通じて、あの広がっていくと、かなりサポートができるのではと思っています。

河村)先生には今度、大学院の講義もしていただきますけど、産業医の先生たちが参加します。あとは、看護職とか、職場の環境、工場の中の管理が専門の先生が多いんですけど、本当に研究所の先生方にもどんどん知っていただきたい。現場でも、導入されるとすごくいいだろうなって思っているので、広げていけるといいなと思っています。

あとは、例えば安全衛生スタッフとか、企業の作業環境測定士とか、衛生管理者とかとか、企業専門資格持って企業に入ります。そういう立場から、安全行動を促したりする立場になりますけど、そこにもやっぱり関係性って大事でしょ。関係性なくして世の中成り立っていきませんから。やっぱり、心の時代じゃないけど関連性なくしてあの色んな物事は成り立たないと思います。「ソダーツ」には本当に、頑張ってほしいです。

伊井)頑張っていきます。ありがとうございます。